河原町ドンバル




ドンバル。
私が敬愛するパン屋さん。

四条河原町から南へ下がった東側にあります。
パン屋さんらしき外観はもっておらず、
目の前を通ってもここがパン屋さんということに気づかない人のほうが多いと思う。
私もずっと気づかなかった。

私はドンバルが大好きだ。
甘く優しいにおいのする柔らかい食パン。
毎日食べるほどにおいしいパン。

食パンと山食とバターロールと黒パン。
4種類しかないところも好きだった。
いつもたいてい山食を食べていた。
朝、かなり厚めのトーストで。

実はとっても老舗で、だけどそれを売りにしようという気が全くないところとか、
実際老舗ということを知られていないところも好きだった。
ただ雑然としすぎた店内は、なんとかしたらいいのにと思った。

おじさんは毎日ただただパンを焼きつづけた。

そして、ドンバルの歴史は幕を閉じてしまった。
おじさんは先週のある日。定休日に突然亡くなった。
ぽっくり天国へ行ってしまった。
前の日までいつも通りパンを焼いて
暑いねえと顔をゆがませて言っていたはずだ。
ドンバルのパン焼き場には、クーラーはないし
その奥の居間にだってなさそうな雰囲気だった。
河原町通りの風の通らなさそうな小さな町家は(いや、町家というほどのものではない)
毎日ものすごく暑かったよね。

ドンバルのおじさんが何歳だったのかは知らない。
70歳前半くらいにみえた。
おじさんと天気の話をするのが好きだった。
ほぼ天気の話しかしなかった。
幸せと不幸の影がいりまじる姿が好きだった。

友人の喫茶店「喫茶六花」が開店するとき、おいしい食パンはどこかなという話になり
もちろんドンバルを勧めた。
そして今週になって、おじさんのお葬式を終えたあと、
亡くなる前におじさんが配合してあった粉で家族で焼いたという食パンが1本、喫茶六花に届けられた。
私たちはそのうち、1斤を分けてもらった。
おばあちゃん(おじさんの奥さん)は
「これがドンバルの最後のパンになります」
そう言っていたときいた。

暑い夏の朝に、泣きながらいただいた。

きっと極楽浄土にいってると思う。
天使の羽をつけて空に浮かんでいる感じもする。
何十年も、毎日毎日、水曜だけお休みして
おいしいパンを焼きつづけたんだもの。
ぽっくり亡くなる前の日まで焼きつづけていた。
幸せだったのかな。本望だったのかな。

だけど淋しい。
おじさんと天気の話はもうできない。
ドンバルの味は世の中からなくなってしまった。

大きな喪失感。
おじさん、わかってるかな。
それをわかってほしくて、書き留めています。

感謝してます。
毎日作ってくれて、ありがとう。
おおきに。
おおきにね。


河原町ドンバル パン店
〜手づくりの味。明治末期に神戸生田神社前にて創業、現在に至る〜
河原町グリーン商店街のWebサイトより転載)
明治末期にドイツ人のドンバルさんが、神戸の生田神社前でオープンした歴史あるパン屋です。
大正12年(1924年)に現在の場所に店舗を構え、今は4代目が店を守っています。
商品はもちっと粘り強くトーストに最適のイギリス食パン、あっさり軽い口当たりでサンドイッチにぴったりの角食パン、卵とバターのバターロール、レーズンたっぷりの黒パンの4種類のみ。
昔からのファンが多く、売り切れることもあるのでお早めに!

レーズンと独特の香辛料の香りがオリジナルの黒パンは、クセになる独特の味。(写真上)ひとつ40円。
添加物を使用せず、自然のままの材料から生まれるパンはすべて飽きのこない優しい味わいです。(写真下)

イギリス食パン 1斤230円・1本690円
角食パン 1斤180円・1本540円
バターロール 40円
黒パン 40円

河原町高辻下る清水町281
075-351-6885
水曜定休
7時〜19時頃





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